Netflix映画「終わらない週末」が面白いと話題です。
ジュリア・ロバーツをはじめ、
豪華キャストが集結したスリラー作品となっています。
しかしラストの展開や敵の存在など、
わかりにくい部分も多い作品ですよね。
そこでこの記事では、
本作のタイトルからラストの意味まで、
様々な角度から考察していきたいと思います。
【解説】終わらない週末の考察
1つ目:タイトルの意味
「終わらない週末」という邦題の本作。
タイトル通りに、
週末にバカンス旅行に出かけたアマンダたち一家。
楽しい“週末”が終わらないなんて夢のようですが、
物語は全く別の方向へ進み、
ラストでアメリカは“終末”を迎えてしまいます。
本作のタイトルは“週末”と“終末”をかけているのでしょう。
原題は「Leave the World Behind」
本作の原題を訳すると、
「世界を置き去りにする」という意味になります。
日常から離れて週末バカンスに出かけたアマンダ一家は、
アメリカが崩壊していくという異常な状況に飲み込まれていきます。
そこにもう日常はありません。
これまでの世界を置いて、
異常な世界と向き合わなければならない
という意味のタイトルなのではないでしょうか。
2つ目:パンデミックの恐怖が蘇る
この映画の原作はアメリカの作家ルマーン・アラムの同名小説。
コロナ禍で世界がロックダウンしていた2020年に発表された作品です。
物語の中で描かれる恐怖や不安は、
当時パンデミックの渦中にいた人々にとってリアル感があり、
この本は大きな話題を集めました。
原作に忠実に作られている本作は、
そんなパンデミックの恐怖や不安が
蘇ってくるような内容になっています。
3つ目:テクノロジー依存への風刺
巨大な石油タンカーがビーチに座礁するなど、
奇妙なことが起きる中、
アマンダたちは情報を得ようとしますが、
PC、スマホ、テレビなど全ての電子機器が繋がらず、
何が起きているのか調べることができません。
クレイは新聞を手に入れるために町に出ようとしますが、
カーナビが使えないと道に迷ってしまうという情けなさ。
お金を引き出すこともできず、
ローズは大好きなドラマ「フレンズ」を見ることもできません。
電話やネット回線などのインフラが止まってしまった途端、
途方に暮れてしまうアマンダたち。
現代人はどれだけテクノロジーに依存した生活を送っているか、
そしてそれがどれだけ危険なことなのかを描いているのでしょう。
4つ目:凝ったカメラワークの意味
本作は、
- 斜めに傾けた映像
- 上下逆さまの映像
- 分断したような映像
- ぐるぐる回る映像
など凝ったカメラワークによる
ユニークな映像が多く見られます。
このような映像がおしゃれな演出になる作品もありますが、
本作では不安を煽る演出になっていました。
登場人物も観客も、
得体の知れない世界に誘い込まれているような
効果が感じられました。
神の視点で描かれている?
さらに本作の特徴は、
登場人物を上から見下ろすような映像が多く、
人々を見下ろしている神の視点
という解釈もあるようです。
終末に向かいパニックになる人々をただ見下ろしている神
という視点で見ると、
より恐怖を感じますね。
5つ目:人種差別の恐怖
アメリカの終末の恐怖が描かれる本作ですが、
その中で人種差別の恐怖が散りばめられています。
このような差別が日常化していることが、
アメリカの終末を招いたのかもしれません。
黒人差別
別荘の家主だと言うGHに警戒心をむき出しにするアマンダ。
彼女の態度から、
黒人を差別する典型的な白人女性であることがわかります。
そしてGHの娘ルースも、
世界が崩壊したら、誰も信用しちゃだめ、特に白人は
と、敵対心を見せていました。
家主であるにもかかわらず、
黒人のGHと娘は地下室で、
白人のアマンダ一家は上の階で寝ることに。
この時の上下に分割されたショットは、
白人と黒人の関係を意味していると思われます。
移民差別
アマンダの夫クレイは情報を得るために車で町に出ます。
その途中に遭遇した一人の女性。
パニックになって話しまくる彼女は、
明らかに何かに困っている様子。
しかしスペイン語で話しているため、
クレイは理解できません。
そしてコミュニケーションを取ろうとはせず、
置き去りにするのでした。
これも移民に対する差別的な白人男性
という描写なのだと思われます。
イスラム教徒差別
謎のドローンからばら撒かれたビラには、
アラビア語で文章が書かれていました。
解読できない大人たちに対し、
アマンダの息子アーチーは、
アメリカに死をと書いてあると言います。
「ゲームで見たことがある言葉だから」と。
このアーチーの一言から、
アメリカのゲームでは、
日常的にイスラム教徒が敵として
描かれていることが伺えます。
アジア差別
サバイバリストのダニーが、
一連の異常事態は、
北朝鮮か中国の仕業だと言い切るシーンがあります。
しかし明確な理由は教えてくれず、
本人もわかっていないようです。
これもアジア差別が感じられる描写でした。
アジア各国の区別がついていないような感じも怖かったですね。
6つ目:性的な描写の意味
本作にラブシーンなどはありませんが、
際どい性的なものを匂わすシーンがあります。
- ルースの水着姿を盗撮し興奮するアーチー
- ローズが盗撮されていると脅すアーチー
- 不倫関係になりそうなアマンダとHG
- クレイに性的な感情を抱かれていると話すローズ
アメリカの終末という異常事態の中、
行動を共にすることになってしまったアマンダ一家とGH家族。
警戒し合う張り詰めた関係を保ちながらも、
互いに性的な目で見るようになる過程が
不気味に描かれていました。
災害時や戦争時は性暴力のリスクが高まることが、
国際的に知られています。
2つの家族の関係を通して、
そのような恐ろしさを描いていたのかもしれません。
7つ目:敵の正体
アメリカを攻撃した敵の正体は何だったのか、
劇中では明確に語られていません。
シェルターコンピューター画面には、
緊急速報
ならずもの部隊が政府と主要都市を攻撃
複数の居留区で高度の放射線レベル検出
直ちに避難せよ
という情報が流れていたため、
「ならずもの部隊」が敵であることがわかります。
この「ならずもの部隊」には2つの説が考えられます。
敵国
- クレイが拾ったビラにアラビア語で「アメリカに死を」と書いてあった
- サバイバリストのダニーは北朝鮮と中国の仕業だと断言
このような描写から、
アメリカが他の国から攻撃を受けている、
そしてその国は1つではなく、
いくつかの国が手を組んで攻撃しているとも考えられます。
しかし敵国説はビラの情報とダニーの言葉だけなので、
信憑性は高くなさそうです。
クーデター
有力なのは敵国ではなくクーデター説です。
GHはこの異常事態は、
政府を転覆させるためのクーデターだと確信しクレイに話します。
金融業界で働いていたGHは、
顧客の中に国家の防衛部門の幹部がいました。
彼が恐れた作戦が「政府を内部から崩壊させる簡単な三段階の作戦」でした。
第1段階:隔離
サイバー攻撃ですべての通信と交信を無効にする
第2段階:カオスの同時多発
隠密作戦と誤報で恐怖に陥れ、
兵器システムを弱体化し、
過激派や軍が侵入しやすくする
第3段階:クーデター
自然と内戦が起き崩壊する
GHによると、
第2段階において、
明らかな敵が見えないと市民は互いに敵視する
そうするとあとは簡単で、
自然と第3段階になるというのです。
国を揺るがすには、もっともコスパのいい作戦
国民自身に自分たちの国を崩壊させるのだ
とGHはクレイに説明しました。
このGHの話から、
本作の敵は政府を転覆させたいアメリカ内部の人間
ということになりますね。
人類以外の敵の可能性もある?
本作の敵はアメリカ内部の人間、
もしくは敵国でしょう。
しかし人類以外の可能性もゼロではありません。
その理由はアーチーの異変です。
・発熱
・歯が抜ける
・嘔吐
などの症状が突然現れたことについては、
最後まで説明がありませんでした。
生物兵器などで病原体をまかれた可能性もありますが、
人類ではない外敵の仕業かもしれません。
動物たちの異常行動が天変地異を察知したものだと考えると、
災害の可能性も考えられるでしょう。
敵の正体は重要ではない?
サム・エスメイル監督はローリングストーンのインタビューの中で、
人は災害や危機によって容易に人間性を失っていく
これは現実社会でも常に起こっていると感銘を受けて、
映画化してみたいと思った
と話しています。
つまり、敵の正体や何が起きているかではなく、
災害や危機などの終末に直面した人々は人間性を失っていく
ということにフォーカスした作品なのです。
どうしても敵の正体を知りたくなりますが、
それはナンセンスのようですね。
8つ目:ラスト3分の選択理由
自転車に乗って姿を消してしまったローズ。
アマンダたちが必死に探す中、
ローズは防空壕のあるソーンズの家にたどり着いていました。
食料を見つけて食べまくるローズ。
そこへアマンダがローズを呼ぶ声が聞こえてきました。
しかしローズはその声に返事をすることなく、
階段を降りていきます。
そしてその先に地下シェルターを見つけます。
そこには大量の食糧と大量のDVDが。
その中にはローズはずっと観たがっていた
大好きなドラマ「フレンズ」のDVDもあります。
ローズはDVDをセットし、
観たかった最終回を再生するのでした。
なぜローズはアマンダを無視したのか
一人で自転車に乗ってソーンズの家まで来たローズは、
必死で自分を探している母アマンダの声を無視して、
地下に歩いていきました。
そして防空壕に入った後もアマンダたちを呼ぶことなく、
一人で「フレンズ」を観始めます。
おそらくローズだけは、
事の重大さに気付いていたのだと思います。
しかし大人たちはわかっていない。
だから大人たちに頼らずに
一人で行動したのだと思われます。
ローズには鹿の意味がわかっていた?
そんなローズの行動を裏付けるのが鹿の存在です。
何度も象徴的に登場した鹿たち。
しかしローズ以外はだれも気にしていませんでした。
神の使いとして古くから手厚く保護されてきた鹿。
奈良の鹿たちも天然記念物として大切に保護されていますよね。
おそらくローズの前に現れた鹿たちも、
神からのメッセージだったのではないでしょうか。
鹿に怯え追い払ったアマンダに対し、
ローズは鹿のメッセージを受け取り、
終末に備えて然るべき場所に
たどり着いたのではないでしょうか。
9つ目:オバマ夫妻の狙い
本作は
- バラク・オバマ(第44代アメリカ合衆国大統領)
- ミシェル・オバマ
こちらのオバマ夫妻が製作総指揮を務めています。
大統領退任後も絶大な支持を集めている夫妻は、
2018年に制作会社ハイヤー・グラウンド・プロダクションズを立ち上げ、
- 映画
- ドラマ
- ドキュメンタリー番組
などのオリジナルコンテンツを制作しています。
Netflixと複数年契約をしており、
本作にも関わっているのです。
オバマ夫妻が本作を手掛けた理由は以下の2つが考えられます。
原作のファンだったから
オバマ元大統領は本作の原作本を
「2021年の夏のお気に入り本」として紹介しています。
お気に入りの本が映画化されるということで、
興味を持ってプロジェクトに参加したのでしょう。
メッセージを伝えたかったから
オバマ元大統領は、
ハイヤー・グラウンドが目指すのは、
ストーリーテリングの力を借りて、
より多くの人々に大切なメッセージを届けること。
としています。
単純にエンターテイメントとして人々を楽しませるだけでなく、
アメリカが抱える様々な問題について考えるきっかけにするために、
様々な作品を手掛けているのです。
本作はアメリカの終末をテーマに、
実に多くの問題を描いています。
そして本作に元大統領のオバマ氏が関わることで、
人々はより真剣にこの問題に触れることになるでしょう。
それがオバマ夫妻の狙いだったのだと思われます。
まとめ
今回はNetflix映画「終わらない週末」について、
さまざまな角度から考察してきました。
本作は観る人によって解釈が異なる、
深みのある作品であると言えるでしょう。